今回は、「減価償却」についての記事です。「減価償却」という言葉は、株式投資をしている人なら、決算書などでよく目にしていると思います。
あまり知られていない事ですが、会社の業績が変わっていなくても「減価償却費の会計方針の変更」があるだけで会社の利益が増えたように見えてしまいます。
そこで、この減価償却の見方を理解して、「業績が上がって利益が増えているのか」それとも「会計方法を変更したため、利益が増えているように見えるのか」を見極めるようになりましょう。
減価償却とは?
減価償却って何?
企業が成長する為には、設備投資が必要不可欠です。そのため企業は、将来の成長の為の先行投資として、建物や機械を購入します。
この設備の代金は、購入時にすべて支払うのですが、「建物を購入したとして、その建物の価値というのは1年で無くなるのではなく、年数をかけて少しづつ資産価値は落ちていくもの」という理由から、購入時に全てを費用として計上することは出来ません。
たとえ、一括払いで購入していても、購入後何年にも渡って使用できるので購入時には、一部しか経費にできないのです。そのため、この購入費用は、数年~数十年に分割して経費として計上していく必要があり、この仕組みを「減価償却」といいます。
何年かけて、減価償却すべきなのかは「建物や機械の耐用年数(今後何年利用できるか)」によって変わります。
耐用年数の例
- 建物(鉄筋コンクリート造り):50年
- 建物(木造):24年
- パソコン:4年
- 車:4年
実際は、非常に細かく分類されていますので、詳しく知りたい場合は、国税庁の耐用年数表を確認してみて下さい。
関連記事:減価償却については以下の記事でより詳細に解説しています。
減価償却費が利益を圧迫する
上記で説明したように、成長する為には、先行投資が必要です。企業は、ビジネス拡大の為に設備へ多額の資金を投入します。
そして、建物を作り機械を設置すると、その時点から減価償却費の負担が発生します。積極的に先行投資する企業ほど設備投資が増え、減価償却費の負担は大きくなります。
減価償却費が大きいと、その会社の財務内容は一時的に悪化してしまい、その結果、利益も圧縮されてしまうのです。
定率法と定額法の違いとは?
この減価償却費ですが、実は同じ金額であっても計算方法によって、表面的な会社の利益に違いが出てしまうのです。
定率法と定額法
減価償却の計算方法はさまざまですが、一般的には「定率法」と「定額法」の2種類のうちどちらかが使われます。
定額法と定率法の違い
- 定額法:毎年の減価償却費が定額
- 定率法:最初に大きく計上して、だんだんと減価償却費が減る
定率法の特徴
上記の図を見ると、「定率法」は最初の方の減価償却費が大きくなって、だんだん減っていっています。定率法は、費用を早め早めに計上する方法である為、表面的な利益は減ってしまいますが、定額法で減価償却するよりも税金が安くなるメリットがあります。
儲かっている会社は、なるべく節税したいと考えるので、通常は「定率法」を選ぶ!
定額法の特徴
一方、「定額法」は、毎期の減価償却費が定額になるため、定額法を選択した場合の方が、初期の減価償却費が小さくなっています。
先行投資の多い企業は、会計方法を、定率法から定額法へ変更すると初期に費用計上される金額が先送りになるため、目先の利益が増加するのです。
儲かっていない会社は、そもそも税金をあまり支払っていません。そのため、税金を減らすより、利益がしっかり出ているように見せて銀行の借入条件を有利にしたいと考え「定額法」を選ぶのです。
- 儲かっている会社は節税のため、「定率法」を選ぶ。
- 儲かっていない会社は利益を多く見える「定額法」を選ぶ
という傾向があるため、会計方針の変更には注意が必要!
会社が減価償却方法を変更する理由
減価償却方法の変更
- 「定額法⇒定率法」へ変更した会社:よっぽど儲かっていると判断
- 「定率法⇒定額法」へ変更した会社:何らかの理由で困っているのかもしれない
上記を踏まえて、株式投資で役立つ見方について説明していきます。
定率法⇒定額法に変更した例
決算短信には、注意事項という箇所に「会計方針の変更」という欄があります。「無」とあれば、変更はないのですが、「有」となっている場合は、会計方法を変更しているという事になります。
以下は、H.27.12月期の竹本容器の決算短信です。
会計方針の変更の②、③が「有」になっているので、会計方針を変更していることになります。
さらに読み進めると、以下の記載がありました。
会計上の見積りの変更と区別することが困難な会計方針の変更
当社及び国内連結子会社では、有形固定資産(平成10年4月1日以降に取得した建物を除く)の減価償却方法について、従来は定率法によっておりましたが、当連結会計年度より定額法に変更しております。
(中略)これにより、従来の方法に比べて、当連結会計年度の営業利益、経常利益及び税金等調整前当期純利益はそれぞれ213,081千円増加しております。
このことから、減価償却方法を従来の定率法から、定額法に変更しているのがわかります。定額法へ変更したことによって、表面上の利益が2.1億円も増加しています。
しかし、年々減価償却費の負担の減る「定率法」に比べると、毎年同じ金額を負担しなければならない「定額法」は、翌年以降の経費負担が相対的に増加してしまい利益が伸び悩むことになるので注意が必要です。
業績が伸びているのか?
このように、会計方法を変更すると、目先の利益が増加してしまいます。しかしこの利益の増加は、純粋に「業績が上がって利益が増えている」のではなく、「会計方法を変更したため、利益が増えているように見えている」だけです。
そのため、「減価償却費の会計方法変更によって増えた利益」を差し引くことで、業績の伸びによる本当の利益を把握し、本当に業績が順調なのか確かめる事が大切です。
決算書を読む時は、減価償却に定率法と定額法どちらを採用しているか・変更はないかをチェックする習慣をつけましょう!
参考記事:会計方針の変更には、「定率法→定額法」で減価償却の仕方が変わる以外にも「日本基準→IFRS」へ会計方針を変更するものもあります。こちらも、会社の中身が変わっていないのに、見かけの利益が増えるので、合わせて知っておきたい内容です。