株式投資をしていると、決算短信に「会計方針の変更」がサラッと記載されている事があります。思わず見逃してしまいそうになる部分ですが、実はこの変更が「見かけの利益」に大きな影響を与える可能性があるので注意が必要です。
今回は、会計方針とは何かや日本基準からIRFSに変更された場合に利益がどう変化するのかについて解説していきます。
会計方針の変更
アサヒグループホールディングス株式会社 決算短信より
会計方針とは?
会計方針とは、会計をする上でのルールの事を指します。
損益計算書や貸借対照表は、決められた会計方針に従って作成されるのですが、実はすべての会社が同一の基準で決算を行っている訳ではないのです。
会計方針の例
- 日本独自の基準:JGAAP(日本基準)
- アメリカ独自の基準:USGAAP(米国基準)
- 世界中の様々な国が使っている基準:IFRS(国際会計基準)
国または企業によって採用している基準が違うのです!
会計方針が異なるデメリット
国や企業によって会計方針が違うと、注意しなければならない事があります。
それは、違う会計方針を使って損益計算書・貸借対照表の数字を作ると、全く同じビジネスであっても、見かけの数字が変わってしまうという事です。
会計方針が統一されてないと、以下のような事態が起こってしまいます。
- 会計基準の異なる同業他社と比較がしにくい
- 米国株投資をする際、日本基準と異なるので注意が必要
- 企業が会計方針を変更すると、前年と見かけの数字が大きく変わる
IFRSを採用する企業が増えていく
会計方針がバラバラだと比較しにくいので、国際会計基準であるIFRS(国際会計基準)へ統一化していこうという動きがあります。
実際、日本でも大企業を中心に会計基準を日本基準からIFRSに変更する企業が増えてきており、将来的にはより多くの会社が会計基準を変更する可能性があります。その為、会計方針が変わると、どこが変化するのかを把握しておく事が重要です。
会計方針の変更で最も重要となるのは「のれん」の会計処理の変化です。そこでまず、「のれん」について説明します。
スポンサーリンク
「のれん」とは?
のれんとは、他の企業を買収したときに生じるもので、「買収価格」と相手企業の「純資産」との差額の事を指します。
- のれん=「買収金額」と相手企業の「純資産」の差
そもそも、会社を買収するときの金額は、相手企業の純資産額がベースになるのですが、実際に純資産だけで判断される訳ではないのです。
数字には表れない無形資産がある
なぜ純資産額だけで判断できないのかというと、会社にはブランド力やノウハウ・特許・商標など目には見えないけど価値のある資産(無形資産)というものがあるからです。
そこで、買収する時に相手企業が価値のある無形資産を持っていたり、将来大きな利益が期待できる場合、純資産にその分の金額が上乗せされるのです。この上乗せ分の金額が「のれん」となります。
反対に、資産はあっても赤字であったり、経営難に陥っている会社を買収する場合は、純資産よりも安い金額で買収することが出来ます。安く買えた分の金額が「負ののれん」となります。
参考記事:なぜ企業が買収をするのかや、買収による株価への影響については以下の記事を参照して下さい。
日本基準とIFRSで主に変わるのは?
日本基準とIFRSでは、先ほど説明したのれんの償却方法が大きく異なります。これにより見かけの利益にも大きな影響があるのです。
のれん償却方法
- 日本基準
日本基準では、のれん代は毎年少しずつ費用として計上することになっています(減価償却)。日本基準だと、工場や機械などの有形資産を購入した時と同様に、「のれん」という資産の価値は年々下がっていくという考え方をします。
そのため、のれんの償却が終わるまで、毎年のれん代を費用を計上しなければならず、その分利益が減ってしまう特徴があります。
- IFRS
IFRSでは、のれん償却をしません。
その為、日本基準からIFRSへ変更すると、毎年のれん代を計上しなくて済むようになり、会社の実態は変わっていないのに見かけの利益が大きく増えたように見えてしまいます。
確かに、工場や機械などは使えば必ず資産価値は落ちていずれゼロになります。しかし、買収した企業のブランド力や利益を生む力が毎年落ちていくとは限らないですよね。
その為、日本基準の考え方に疑問を持っている会社や、見かけの利益を少しでも多く見せたい会社などはIFRSへ変更すると考えられます。
IFRSの注意点
見かけの利益が増えるメリットのあるIFRSですが、将来的なリスクが増えてしまうデメリットもあるで注意が必要です。
それは、買収した会社が何らかの原因で業績不調に陥ると、のれんの価値が損なわれ、減損損失分を一気に費用として計上しなければならない事です。※減損損失とは、資産の収益性の低下により、投資をした金額を将来回収する事が見込めなくなった場合、回収できる金額まで低下させる処理。
そうなると、業績不振+減損損失のダブルパンチで利益が大きく減ってしまいます。
日本基準でも、業績不振により減損損失を計上する事はありますが、以下の図のように毎年償却してきた分、損失額は少なくて済みます。
IFRSには特別利益・特別損失がない
もう一つ注意点があります。それは、IFRSには「特別利益」「特別損失」という項目がなく、全て「営業利益」に含むので、一過性の要因でも業績が大きくブレているように見えてしまう事です。
例えば、減損損失が発生した場合、日本基準では「特別損失」扱いなので、一時的なものだと皆が認識できます。
しかし、IFRSの場合「特別損失」という項目が無く「営業利益」内に含まざるを得ないので、業績がかなり悪くなったように見えてしまいます。その結果、投資家が誤解し株価下落に繋がる恐れがあるのです。
また、負ののれんが発生するような買収をした場合、日本基準では「特別利益」として計上されるので分かりやすいです。しかし、IFRSでは「その他収益」として営業利益に含まれるので、営業利益が大きく増えたから本業が好調なんだと勘違いしないように気をつけなければなりません。
このように、会計方針が変わるとどのような変化が起こるかを知っておく事で、見かけの数字に惑わされなくて済むのではないでしょうか。
参考記事:会計方針の変更には、「定率法→定額法」で減価償却の仕方が変わるものもあります。こちらも、会社の中身が変わっていないのに、見かけの利益が増えるので、合わせて知っておきたい内容です。