今回は、投資家や経営者にとって重要な「ROIC(投下資本利益率)」について解説します。
「どれだけの資産を使ってどれだけ利益を出せたか?」という「効率性」に着目した指標は、ROICの他にもROAやROEがあります。その中でも、特にROICが企業の本当の稼ぐ力を表すと言われている理由についても見ていきましょう。
ROICとは
ROIC(投下資本利益率)は、「企業が事業活動の為に投じた資金を使って、どれだけ効率的に利益を生み出しているか」を知るための指標です。
このROICの数値が大きいほど、効率的に利益をあげていることになります。
それでは早速、ROICの公式を見てみましょう。
ROIC=税引後営業利益÷投下資本×100(%)
公式から、ROICでは企業の本業での稼ぐ力を見極めるために「税引後営業利益」と「投下資本」を使って算出している事が分かります。
なぜ「税引後営業利益」と「投下資本」を使うんだろう?
税引後営業利益
利益は営業利益以外にも、経常利益や純利益がなどがあります。しかしROICでは「営業利益」を使うのが一般的です。それは、営業利益が本業で稼いだ利益だからです。
また、より現実的に試算するために、後で支払わなければならない税金を引いた「税引後営業利益」を使用します。※厳密には、「営業利益+減価償却費+支払利息−営業利益にかかる税金」で算出しますが、ややこしいので本記事では簡単な算出方法を使用しています。
参考記事:「損益計算書」の見方とは?5つの利益の見方を分かりやすく解説!
投下資本
続いて投下資本は「資金調達サイド」と「資金運用サイド」からみることで、二通りの計算方法があります。
資金調達サイド
まず「資金調達サイド」からみた投下資本は、株主から集めたお金や事業活動によって稼ぎ出した利益(純利益)と銀行などから借りたお金(有利子負債)を足して計算したものです。
投下資本=純資産+有利子負債
資金運用サイド
次に、「資金運用サイド」から見た投下資本は、事業用資産(運転資金、売掛債権、棚卸資産、固定資産など)から事業用負債(仕入債務など)を引いたものと計算できます。
投下資本=事業用資産−事業用負債
ROICは、貸借対照表から「事業に使われている資産」のみを抜き出すことで、それに対してどれだけの利益が出ているのかを算出する狙いがあります。これにより、純粋な事業競争力を求めることができるからです。
そこでROICでは、直接事業に使われていない資産などは控除して、実際に事業に使われている投下資本だけを分母に用いているのです。
ややこしくて自分で計算できなそう…と感じる方もいると思いますが、ROICを自動計算できる便利なサイトは後で紹介するので大丈夫です!
ROEやROAとの違い
資本効率をはかる指標にはROIC以外にも、ROEやROAがあります。投資家にとっては、ROEやROAのほうが馴染みがあるのではないでしょうか。
※そもそもROEやROAって何?という方は、まず以下の記事から読むと理解しやすくなると思います。
ROEの問題点
まずROE(自己資本利益率)の公式をおさらいしてみましょう。
ROE=当期純利益÷純資産×100(%)
公式から、ROEはどれだけ利益をあげたかを示すために「当期純利益」と「純資産」を使って算出しています。
「純資産」のみで算出することになるROEでは、銀行などからの借入を含んでいません。そのため、借金体質の企業は必然的にROEが高くなりやすく、効率が良いように見えてしまいます。
さらに自社株買いや増配で、純資産を圧縮することで容易にROEの数値を改善できてしまうのです。
ROAの問題点
続いてROA(総資産利益率)の公式は以下の通りです。
ROA=当期純利益÷総資産×100(%)
公式から、ROAでは「当期純利益」と「総資産」を使って算出していることが分かります。
先ほどのROEは借金を加味していない欠点がありましたが、反対にROAは必要な項目以外を加味してしまっている欠点があります。またROA,ROEで使用される「当期純利益」は、本業の儲けだけでなく「利子や配当」「特別利益や特別損失」などを含んだ最終的な損益です。
そのため、「本業でどれだけ効率的に稼いだか?」が見えにくい欠点もあります。※ROAは、純利益以外に経常利益や営業利益を用いて計算されることもあります。
- ROE:借金を加味していない
- ROA:必要な項目以外を含んでしまっている
ROICのメリット・デメリット
一方でROICは、事業に使っている真の資産からどの程度のリターンを出しているかが分かります。そのため、「事業そのものの稼ぐ力」を表す指標だと言えます。
しかし、営業利益を使って算出しているので、「会計方針の変更」の影響を受ける点には注意が必要です。例えば、日本基準からIFRSへ会計方針を変更した場合や、定率法から定額法へ減価償却方法の変更をした場合には、業績が変わっていなくても営業利益が増えて見えてしまうことがあります。
この場合、業績に変化がなくてもROICが改善したように見えてしまいますので、気をつけましょう。
ROICを自動計算できる便利サイト
最後に、ROICを自動計算できる便利なサイトを2つ紹介します。
バフェット・コード
まずおすすめなのがバフェット・コードです。企業名で検索すれば簡単にROICの数字が分かります。さらに、条件検索機能を使えば、ROICの数値が高い企業順に並べることができます。※以下は、ROICが30%以上で検索し、数値の高い順に並べたものです。
参照:バフェット・コード | ワンストップで効率的な財務分析ができるツール
これ以外にも、企業比較機能を使えば、簡単に同業他社でROICを比較することもできるので重宝しています。
GMOクリック証券
続いておすすめなのが、GMOクリック証券のROICツリーの推移が閲覧できるツールです。以下のように最大で過去10年間のROICの推移を簡単に見る事ができます。
参照:GMOクリック証券
また、ROICツリーは、ROICそのものの推移を見るだけでなく、ROICを変化させた主な要因が何かを知ることができます。
例えば、上記の北の達人コーポレーションのROICツリーを見るとROICが急上昇していますね。なぜ急上昇したのでしょうか?
まずひとつは、売上高営業利益率(売上に対する利益)が右肩上がりに上昇している点です。詳しく見ると、原価率や販売管理費率が低下したことで効率的に利益を生み出せるようになっていることが分かります。
もうひとつの、投下資本回転率も急上昇しています。詳しく見ると、特に固定資産回転率(売上に対する固定資産)が急上昇したことが要因として考えられそうです。
この数値が高いということは、保有している固定資産を有効に活用できるようになったと読み取れます。
「ROICを変化させた要因が何なのか?」に着目することで、企業の変化や経営方針に気が付くことができる!
ちなみに、このツールは、GMOクリック証券に口座を持っていれば完全無料で使えます。
口座開設は無料で出来ますし、ひとりで複数の証券会社の口座を持つ事もできます。そして、何より無料ツールとしての価値がとても高いので、経営分析をしてみたい人は是非登録してみてはいかかでしょうか。