今回は、負債の部「流動負債」でよく使われる勘定科目をまとめて解説していきます♪
資産の部「流動負債」
貸借対照表は、資産の部「流動資産・固定資産」、負債の部「流動負債・固定負債」、純資産の部「純資産」にわかれています。
このうち、負債の部の「流動負債」は、将来支払わなければならない借金のうち1年以内に返済しなければならない借金、もしくは営業サイクルにおいて発生する債務が当てはまります。
営業サイクルとは、仕入れから販売、現金の回収までの営業取引の流れのことです。営業サイクルにあれば、現金の出金に1年以上期限のある買掛金や支払い手形も流動負債に計上されます。
流動負債の主な項目
流動負債は、上から支払い義務の強い順で並んでいます。流動負債のうち大部分を占めるのが、「仕入債務」と「短期借入金」です。
- 仕入債務:商品や材料など買い、支払いを後回しにしているお金。「買掛金」「支払手形」など
- 短期借入金:銀行などに借りているお金のうち、返済期限が1年以内のもの。
- 引当金:将来発生する可能性の高い損失に対して、あらかじめ費用をつんでおくもの。「賞与引当金」、「退職引当金」など
- 前受収益:将来の利益の繰延。
それでは、流動負債の中身を順番に見ていきましょう!
仕入債務とは
流動資産の代表例が、買掛金や支払手形といった「仕入債務」で、商品や材料など買い、支払いを後回しにしているお金です。
支払手形は、支払期日が明確に決められているため、流動負債の中でもっとも支払義務の強い借金です。
ちなみに、企業間の取引きでは、取引毎に代金を支払うのではなく、月の仕入れ額の合計額を翌月に請求されてから代金をまとめて支払うケースが一般的です。
そのため、銀行などからの借入れをしていない無借金経営の企業であっても、仕入債務は発生します。
買掛金と未払金のちがい
買掛金と似た勘定科目で「未払金」というものがあります。
商品売買に関係する未払いは「買掛金」で処理されます。一方で、買掛金(通常の取引活動)以外の未払いは「未払金」で処理されます。
このように勘定科目は、決算書を見た人がより正確に企業の中身を把握できるように細かく分かれているのです。
ちなみに、同じ商品であっても業種によって仕分けが変わる場合もあります。
例えば同じ建物でも、不動産業であれば、事業として建物の売買をおこなうので、未払いは「買掛金」となります。しかし、不動産業でない企業が自社で使う目的で建物を買った場合の未払いは「未払金」となります。
短期借入金とは
短期借入金とは、銀行などに借りているお金のうち、返済期限が1年以内のもので、事業の継続に必要な運転資金などにあてられます。
短期で借りていたお金に加えて、長期借入金のうち返済期限が1年以内にせまったものなども当てはまります。
運転資金とは:まだ回収できていない収入(売掛金+棚卸資産)から、まだ支払っていない費用(買掛金)を引いた金額。
業種によっては、収入の回収と費用の支払いにズレが出て一時的に資金繰りが悪化してしまいます。運転資金は、収入を回収するまで事業を継続するために必要な資金です。
有利子負債が多過ぎないかに注目
先ほど紹介した買掛金や支払手形は、借金ではありますが、利息が発生するわけではありません。
一方の銀行などからの借り入れは、利息の支払いをともなう負債です。(有利子負債)
有利子負債が多いと、損益計算書の営業外費用が大きくなり経常利益が減ってしまう原因となります。
有利子負債が多すぎないかに注意しよう!
引当金は将来の損失への備え
引当金とは、将来発生する可能性が高い損失に対して、あらかじめ費用をつんでおくものです。
- 賞与引当金:従業員への賞与として支払う予定のお金。決算日に確定している賞与の負担額を見積もり計上する。
- 退職給付引当金:従業員の退職金として支払う予定のお金。
- 製品保証引当金:販売した製品に対して発生する可能性のある保障のためのお金。
なぜ引当金を事前に積み立てていく必要があるのでしょうか。
製品保証や、賞与の支払いによって実際にお金が減るのは将来ですが、今期製品を売ったり、従業員が働いたことが原因で発生する費用です。
そのため、今期の収益に対する費用は今期計上します。
※損失が発生した期に一気に費用を計上すると、費用と収益が対応しなくなってしまいますね。費用と収益をできるだけ厳密に対応させることで、決算書を見た人がより正確に利益を把握することができます。
将来のお金の減少を今期の費用として計上することで、将来実際にお金が減ったときに費用を発生させずに済みます。
引当金が減ってないか?
引当金は、将来のリスクに対する備えであり、売上の伸びにともなって増加する傾向にあります。
しかし、売上が増えているのにもかかわらず、引当金の金額が減っている場合、将来のリスクへの備えを怠っている可能性があるので注意が必要です。
引当金を計上しなければ余分な費用がかからないので、今期の利益にとってはプラスです。しかし、将来の企業がこうむる可能性の高い損失に対する積み立てがなされていないリスクの高い状態とも言えます。
そのため、売上が伸びているにもかかわらず、引当金が増えていないor減っている場合には、引当金を計上せずに利益を大きく見せているおそれもあるので注意が必要です。
前受金・前受収益は利益の繰延
前受金や前受収益は、まだ提供していない商品やサービスの代金を先に受け取った場合に使う勘定科目です。
「前受金」と「前受収益」のちがい
前受金は、単発の売上の場合に使われます。代金の一部(内金・手付金)を前もって受け取り、後で商品を引き渡す場合、前もって受け取った代金を「前受金」で処理し、商品を渡した後に「売上」として計上します。
一方の前受収益は、継続してサービスを提供する契約の場合に使われます。受け取った収益の中に、まだサービスを提供していない翌期以降の分が入っている場合の代金を「前受収益」として処理し、サービスを提供後に「売上」として計上します。
決算書では、今期の売上に翌期分の売上が含まれてはいけません。
そのため、当期に受け取った収益の中に、翌期分の収益が含まれている場合には、その金額を当期分の収益から差し引く必要があるのです。
例えば、3月期決算の企業が、6/1から貸している店舗の家賃を1年分先払いで受け取ったとします。すでに賃料を受け取っているものの、今期店舗を貸したのは、6月から3月の10か月間で、翌期の2ヵ月分はまだ店舗を貸していない状態です。
このような場合、今期の損益計算書に翌期分の売上を含まないためにも、翌期の代金(2ヵ月分)を「前受収益」として差し引く必要があります。
将来の利益が流動負債に計上されるのは違和感がありますが、のちにサービスや商品を提供する義務があり、解約された場合返金しなければならないと考えるので負債に計上されます。
前受金や前受収益は、流動負債に計上されているものの、将来の利益につながる勘定科目なので、投資家にとって悪いものではありません!
まとめ
ここまで1年以内に返済が必要な借金を表す「流動負債」について紹介してきました。
有利子負債が多いと、損益計算書の営業外費用が大きくなり、経常利益が減ってしまう原因となります。有利子負債が多すぎないかに注目してみましょう。
また、流動負債には、「支払手形・買掛金」のように返済義務があるものと、「引当金」のよう将来のリスクへの備え、「前受収益」のように将来の利益となるものが混ざっています。
流動負債にあるすべての項目が悪いものというわけでもないので、負債が大きいから悪い企業と決めつけると企業を見誤ってしまうおそれがあります。
そこで、今回紹介した勘定科目を中心に、流動負債の中身を具体的にチェックすることをおすすめします♪
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