今回は、企業の商品力がわかる「売上総利益」の見方について解説します。
売上総利益とは
損益計算書は、5つの利益(売上総利益・営業利益・経常利益・税引き前当期純利益・当期純利益)で構成されています。
このうち売上総利益は、企業の稼いだ「売上高」から、商品を仕入れたり、サービスを提供する際に直接かかった費用である「売上原価」を引いた利益です。別名、「粗利」とも呼ばれます。
「売上高」-「売上原価」=「売上総利益」
売上原価に含まれるのは、以下のような費用です。
- 商品を仕入れるための費用
- 製品を作るための原料費
- 製品を作るための人件費(労務費)
- 製品を作る機械の減価償却費
- 工場を稼働させるための水道光熱費
損益計算書には「売上原価」としてまとめて記載されています。
企業によっては「売上原価明細書」や「製造原価明細書」といった名目で、有価証券報告書に原価の区分や構成比をのせている場合もあるので確認してみましょう♪
参照:2020年3月期 任天堂 有価証券報告書より
売上総利益で企業の商品力がわかる
売上総利益からは、企業の商品力を知ることができます。
原価率が低くても売れる商品を持っている企業は、価格競争に巻き込まれない付加価値の高い魅力的な商品を持っているとも言えるので、企業が儲ける上で大きな強みになります!
例えば、以下のA社とB社では、B社のほうが売上総利益が大きく儲かりやすいと言えます。
- A社:500円で仕入れた商品を1,000円で販売→粗利500円【売上総利益率50%】
- B社:400円で仕入れた商品を1,000円で販売→粗利600円【売上総利益率60%】
ただし、利益率の低い商品をたくさん売ることで、売上総利益を稼ぐ販売戦略を取る企業もあるので、一概に低いから悪いとはいえません。
売上総利益率は、売上総利益(粗利)÷売上で求められます!
売上総利益を増やすには?
売上総利益を増やすには、売上を増やすか、売上原価を減らすのどちらかが必要です。
- 売上を増やす:商品に付加価値を付けて客単価を上げる、店の回転率を上げる、まとめ買いをすすめる、販売エリアを広げるなど工夫をして売上を増やす。
- 売上原価を減らす:人件費の安い国で製品を作る、商品を大量に仕入れる、アルバイトの比率を増やして人件費を抑える、売れていない商品の販売をやめる、運送費を安く抑える
売上原価をおさえつつ売上を増やせるのが理想ですが、売上が変わらなくても、売上原価を減らすことができれば儲けは増えます。(売上総利益率は上がる)
一方で、過度な安売りをして売上を増やせたとしても、肝心の売上総利益が増えなければ儲けることはできません。
売上総利益がマイナスの場合は危険大
売上総利益をしっかり確保することは、経営においてとても重要です。
企業は、獲得した売上総利益を使って、社員の人件費、店舗の家賃や光熱費、成長のための投資費用(研究開発費)などをまかなっているからです。
とくに、売上総利益がマイナスになる場合は、売れば売るほど赤字になるとても危険な状態です。「原価割れ」という言い方をされますが、仕入れた値段よりも安い値段で売っているからです。
- 大量に商品を仕入れたものの、ブームが去って値崩れしてしまった。
- 原材料の仕入価格が高騰して、売値よりも高くなってしまった。
最近の事例では、マスク不足の中で高値で仕入れた企業が、マスクの市場価格の暴落によって、仕入れ値よりも安い値段でしか売れない状態になったと報道されていました。
ほかにも、新電力の販売事業をおこなうホープの最新の決算書を見ると、2020年12月からの電力価格の高騰で、売値よりも原価のほうが高くなったことで売上総利益がマイナスになっています。(2021年2Q単体の数字)
このような状態が続くと、資金繰りの悪化で企業の経営自体が危ぶまれてしまいます。
売上総利益の分析ポイント
それでは、売上総利益の分析ポイントについて紹介します。売上総利益は、①過去の決算②決算書のほかの数字③同業他社との比較に注目しましょう。
1.売上総利益率が高まる傾向にあるか?
まずは、自社の過去の業績との比較です。
売上総利益率の推移が、右肩上がりに上がっていれば、収益性が高まっていると言えます。そこで、売上総利益率が年々高まる傾向にあるか?に注目してみましょう。
▼売上総利益率の推移をチェック!
参照:マネックス証券 銘柄スカウター
2.売上と売上総利益は、どちらが伸びているか?
続いて、売上と売上総利益の伸びを比較してみましょう。
決算書で売上高が伸びていると、順調そうに見えてしまいます。しかし、売上総利益率が下がっている場合、収益性はむしろ下がっています。
売上が伸びた分だけ売上原価も増えていると、利益を増やすことはできません。
▼売上高と売上総利益の前期比の推移をチェック!
参照:マネックス証券 銘柄スカウター
上記のように、売上の伸び以上に売上総利益が伸びている企業は、効率的に収益を稼げるビジネスモデルを持っていると考えられます!
3.売上総利益率は同業他社と比較して高いか?
さいごに、同業他社との比較です。
同業他社と比較して、売上総利益率は高いか?に注目してみましょう。売上総利益率は業種によって大きく変わるので、売上総利益率は同業他社と比較しないと意味がありません!
▼同業他社の売上総利益率をチェック!
参照:マネックス証券 銘柄スカウター
上記は、100円ショップ4社を比較しています。この中ではセリアの売上総利益率がもっとも高く、商品力が高いことがわかります。
まとめ
ここまで、 売上総利益について紹介してきました。
売上高に対する売上原価が少ないほど、売上総利益は大きくなります。原価率が低くても商品が売れる企業は、付加価値の高い魅力的な商品を持っているとも言えるので、企業が儲ける上で大きな強みになります!
売上総利益をどれだけ確保できるかが、最終的な企業の利益を左右すると言っても過言ではないので、企業を分析する際は、「売上総利益をきちんと確保できる体質か?」に注目してみましょう!
売上総利益の分析には、マネックス証券の「銘柄スカウター」がおすすめです!
決算の数字をもとに、前期比や利益率を自動で計算したり、同業他社の比較が簡単にできるなど決算書の分析に使える機能が網羅されています♪