今回は、自社株買いについて紹介します。
株主還元の一環としておこなわれることが多い自社株買いですが、株価にどんな影響があるのでしょうか。
自社株買いとは
自社株買いは、自社で発行した株式を企業自身が市場から買い戻すことを言います。
基本的に自社株買いは、配当金と同様に株主還元を目的におこなわれます。
自社株買いは、配当金のように株主が直接お金を受け取れるわけではありません。しかし、企業が自社の株式を取得することで、1株あたりの利益が増えて株主価値が高まるので間接的に株主還元を受けています♪
自社株買いは、株主還元の一環!
自社株買いで株価は上がるの?
自社株買い発表で株価が上がるケースが多い
自社株買いをおこなうことで、1株あたりの利益が増えて株主価値が高まるので、自社株買いが株価にとってプラス材料となるのは事実です。
実際、自社株買いが発表されると株価が上がるケースが多く見られます。
自社株買いで株価が上がる理由には、PERやROEといった指標の改善が関係しています。
自社株買いでPERが低下する
PERは、株価÷1株あたりの利益(EPS)で計算されます。
1株あたり利益は、当期純利益÷期中平均株式数(期中平均発行済み株式数から期中平均自己株式数を引いたもの)で計算されるのですが、自社株買いによって、期中平均株式数が減るので1株あたりの利益が増えます。
株価が変わらないとすると、1株あたりの利益が増加すればするほど、PERは下がるので、割安感が高まります。
自社株買いでROEが高まる
自社株買いをおこなうと企業の保有する現金が減ります。現金が減ると同時に自己資本も減るため、当期純利益に変化がなくてもROEが引き上がります。(ROEの計算=当期純利益÷自己資本×100)
ROEが高いほど、投資した資金を有効に活用できていると判断されるのでROEの高まりは投資をする上でプラス材料となります。
ただし、自社株買いに現金を使うと、その分自己資本比率は低下します。
投資家から見れば、投資効率は上がるものの、安全性は下がります。そのため、自己資本比率がもともと低い企業の大規模な自社買いには注意が必要です。
ただし”企業が株を買うから上がる”は間違い
自社株買いと聞くと、企業が株を買うことで株価が上がるイメージを持っている人もいるかもしれません。
とくに、流動性の低い銘柄で大量の自社株買いがおこなわれると、「自社株買いだけで株価が急騰してしまうのでは?」とも思えてしまいます。
しかし、企業が自分の会社の株価を吊り上げることはできません。
企業は、証券会社を通じて自社株を買う(市場買い付けの場合)のですが、自社株買いの買付で直接株価を上げないようにするためのルールがあるからです。
市場買い付けルールの例
- 寄付き前の注文では、前日の終値を上回る価格での買付はできない
- 寄り付き後の注文は、その日の高値を上回る価格や、直前の価格を上回る価格で、反復継続した買付はできない
- 買付日の属する週の直前4週間の一日平均売買高を上回る買付はできない
そのため、自社株買いの期間中は、企業が株を買うことで株価上がるというのは間違いです。
自社株買いの注意点
続いて、自社株買いの注意点についても紹介します。
自社株買いを消却しているか
1株あたり利益は、当期純利益÷期中平均株式数(期中平均発行済み株式数から期中平均自己株式数を引いたもの)で計算されます。
つまり、自社株買いをすると1株あたりの利益は増えますが、発行済み株式数は減りません。
発行済み株式数は、自社株買いで取得した自己株式の消却することではじめて減ります。
逆に、自己株式をいつまでも消却しないで、保有している企業は、将来的に処分(第三者割当・株式交換、売出しによる市場売却など)する可能性があります。
処分は、自社株買いで取得した自己株式を売却することを意味します。つまり、処分によってせっかく自社株買いで増えた1株利益が減ってしまうのです。
そのため、自己株式の消却をしている企業のほうが、将来的な売却リスクがなく安心できます。
成長株の場合は株価が下がるケースも
成長株の場合、自社株買いが好感されない場合もあります。
成長株を買っている投資家は、株主還元よりも、株価上昇による値上がり益を得ることを目的に投資している投資家が多いからです。
成長企業は、現金をたくさん持っていない場合も多く、「せっかくの資金を自社株買いに使うのはもったいない。」、「将来に成長が鈍化するのではないか。」という懸念から売り材料となるケースもあります。
投資家が何を期待して投資しているか?に注目!
自社株買いIRで確認したいポイント
実際に保有株の自社株買いが発表された際に確認したいポイントについても紹介します。
取得する株式の割合が高いか?
まず確認したいのは、「取得する株式の総数の割合%」です。これは、発行済株式数に対する自社株買いをおこなう株数の割合を表しています。
発行済み株式総数に対する割合が高いほど、好材料として反応しやすくなります。逆に、割合が低すぎる場合、インパクトが薄く株価に影響がでにくくなります。
想定取得単価と株価に乖離があるか?
割合だけでなく、企業の想定している取得単価にも注目してみましょう。
企業の想定する取得単価は、「株式の取得価額の総額÷取得する株式の総数」で計算できます。
これにより、企業が総数の満額買う気があるのかを読み取れます。
たとえば2022年1月28日に弁護士ドットコムは、取得する株式の総数200,000株上限で、取得価額の総額は500,000,000円を発表しています。
発表された数字から株価を計算すると、500,000,000÷200,000=2,500円となり、企業の想定取得単価は2,500円となります。
しかし、2022年1月28日IR発表時の弁護士ドットコムの終値は4,200円で、自社株買いの想定単価は、現在の株価よりも40%ほど下に設定されています。
- 取得割合:0.9%
- 想定取得単価:2,500円
- 発表時点での株価4,200円
となると、IR発表時の株価4200円であれば、実際は約40%少ない約120,000株しか買うことができません。つまり、実質的な取得割合は0.9%よりも4割程度低くなると考えられるのです。
実際、弁護士ドットコムは、2月9日に101,000株の取得で自社株買い終了のIRを発表していました。
このように取得枚数だけを見てしまうと、上限よりかなり低い枚数で自社株買いが終わってしまった…なんてことにもなるので注意が必要です。
そこで、企業の想定する取得単価が低い場合には、取得割合を割引いて考える必要があります。
反対に、現在の株価よりも想定取得単価が高く設定される自社株買いもあります。取得単価が高ければ、自社株買いをおこなう期間に株価が上昇したとしても、満額取得することができる可能性が高まります。
取得割合だけで判断するのではなく、企業の想定している取得単価から自社株買いに対するやる気を読み取ってみましょう!
さいごに
ここまで、自社株買いについて紹介してきました。基本的には、自社株買いは基本的には株価にプラスで喜ばしい材料と言えます♪
ちなみに、過去に自社株買いをおこなった企業は、株主還元の一環として今後も定期的に自社株買いをする可能性があるので、「保有株が過去に自社株買いをおこなっているか?」にも注目してみると面白いと思います!
自社株買いを発表した企業の探し方
なお、自社株買いは、「自社株買いのお知らせ」ではなく「自己株式取得に係る事項の決定に関するお知らせ 」といった表題で発表されます。
SBI証券では、マーケット▶適時開示▶自己株式を選択すると、自社株買いを発表した企業が一覧で表示されるので便利です♪