上場企業は、事業を拡大したり、新しい分野に進出したりするために、子会社を持つことが一般的です。
こうした企業の本当の実力を見るためには、「連結決算」の読み方を理解することが重要です。そこで、今回は、連結決算を読む上でのポイントをわかりやすく解説します。
連結決算とは
連結決算とは、親会社だけでなく、その傘下にある子会社や関連会社といったグループ企業全体の経営状況をひとまとめにした決算書です。
たとえば、イオンはスーパーやショッピングモールだけでなく、ミニストップやまいばすけっと、ウエルシア薬局などの子会社を抱えています。
このような場合、イオングループ全体の経営状況を正確に把握するためには、各子会社の業績を統合した連結決算を読む必要があります。
連結決算を読むポイント
連結決算を効果的に理解するために、次のポイントを押さえておきましょう。
①子会社の売上や利益が合算される
連結決算では、子会社の売上や利益は親会社の決算に合算されます。
子会社の売上や利益は親会社の連結決算に含まれるため、子会社が儲かれば親会社も儲かり、逆に子会社が損をすれば親会社も損をします。
- 子会社が利益を上げた場合→親会社の連結利益が増加
- 子会社が損失を出した場合→親会社の連結利益が減少
たとえば、親会社A社が子会社B社の株式を100%保有しているとします。
今期B社が1億円の利益を出した場合、この1億円はA社の連結決算に組み込まれ、A社の最終的な利益も1億円増えることになります。
親会社が原則として50%以上の株式を持っている会社は「子会社」と呼ばれ、100%の株式を持っている場合は「完全子会社」と呼ばれます。
②非支配株主持分が控除される
連結決算を読む際には、非支配株主の存在も知っておくことが重要です。
親会社が子会社の株式を100%保有している場合は、子会社のすべての損益が親会社の連結決算に含まれます。
しかし、親会社が子会社の株式を100%保有していない場合、親会社以外の株主(非支配株主)がいることになります。
たとえば、A社の株式の80%をB社が保有しているとします。この場合、B社の連結決算では、子会社であるA社の収益や費用が合算されます。しかし、このままでは、残りの20%の株式を持つ非支配株主の分まで含めてしまうことになります。
そこで、「非支配株主に帰属する当期純利益」という勘定科目が使われます。
この「非支配株主に帰属する当期純利益」で、親会社以外の株主に分配される利益を控除することで、利益が過剰に計上されるのを防いでいるのです。
連結決算ならではの勘定科目!
具体例として、多くの子会社を持つサイバーエージェントの連結決算書を紹介します。
主な子会社名 | 主要な事業内容 | 議決権割合(%) |
株式会社AbemaTV | 新しい未来のテレビ「ABEMA」の運営 | 55.2 |
株式会社CyberZ | スマートフォン向け広告に特化した広告代理事業 | 100.0 |
株式会社Cygames | スマートフォン向けゲーム事業 | 61.7 |
株式会社Colorful Palette | スマートフォン向けゲーム事業 | 90.0 |
株式会社WinTicket | 公営競技のインターネット投票サービス「WINTICKET」の運営 | 100.0 |
以下は、サイバーエージェントの2023年9月期決算書です。
参照:サイバーエージェント 2023年9月期決算短信から抜粋
当期純利益の約109億円から、非支配株主に帰属する当期純利益(親会社以外の株主の取り分)の約56億円が控除され、親会社株主に帰属する当期純利益は約53億円となっています。
連結決算の最終利益は、当期純利益の約109億円ではなく、「親会社株主に帰属する当期純利益」である約53億円のほうになります。
サイバーエージェントのように、子会社を多く抱えている企業では、当期純利益と親会社株主に帰属する当期純利益の差が大きくなる傾向があります。
※企業の子会社の名称や議決権の所有割合などは、有価証券報告書の「関係会社の状況(連結子会社)」で確認できます。
➂持分法適用会社は投資損益扱い
親会社が、原則として20%以上50%未満の株式を持つ会社を「持分法適用会社」と呼びます。
持分法適用会社の場合、子会社のように売上や利益をすべて合算するのではなく、その会社が得た純利益を、持っている株式の割合に応じて親会社の利益に反映させます。
たとえば、A社がB社の株式を20%保有しているとします。B社が1億円の利益を出した場合、A社はB社の利益の20%にあたる2,000万円を、自分の会社の利益として計上することができます。
この2,000万円は、「持分法による投資利益」という勘定科目で、営業外収益に計上されます。
- 持分法適用会社の利益
営業外収益に持分法による投資利益(持分適用会社の当期純利益 × 出資比率)が計上されます。これは、経常利益の増加要因となります。
- 持分法適用会社の損失
営業外費用に持分法による投資損失が計上されます。これは、経常利益の減少要因となります。
任天堂の決算を例に紹介します。(株)ポケモンは、任天堂の持分法適用会社のひとつです。
持分法適用関連会社 | 主要な事業内容 | 議決権割合(%) |
㈱ポケモン | ポケモン関連商品の販売及びライセンス | 32 |
任天堂の決算書を見ると、営業外収益に「持分法による投資利益」が約300億円計上されています。
参照:任天堂 2024年3月期決算短信から抜粋
任天堂はポケモンの株を32%保有しているため、ポケモンの純利益の32%が任天堂の持分法による投資収益として計上されています。
持分法は、親会社が他の会社の経営に一定の影響力を持っている場合に、その影響力を会計に反映させるための方法です。
出資比率で連結決算での扱いが変わる!
④親会社と子会社間の取引は消去される
連結決算では、親会社と子会社の間で行われる取引は、グループ全体で見ると内部的なものとみなされるため、消去されます。
この処理によって、グループ外部との取引だけが反映され、グループ全体の正確な利益が把握できるようになります。
親会社と子会社間の取引で消去されるものには、様々なケースがありますが、代表的な例として以下のものが挙げられます。
売上・仕入の消去
親会社が子会社に100万円の商品を販売した場合、親会社の売上高に100万円、子会社の仕入高にも100万円が計上されます。
しかし、連結決算ではこれらの取引はグループ内部のものとして消去されます。その結果、グループ全体の売上高や仕入高には影響を与えず、過大な計上を防ぐことができます。
未実現利益の消去
親会社が子会社に原価50万円の商品を80万円で販売した場合、親会社には30万円の利益が記録されます。
しかし、子会社がまだこの商品を外部に売っていない場合、グループ全体としては実際には30万円の利益が実現していません。
そこで、連結決算ではこの30万円の利益(未実現利益と言います)を消去することで、グループ全体の実際の利益が正確に反映されるようにします。
資本に関する取引の消去
親会社が子会社に出資した場合、それぞれの会社で投資や資本金が計上されますが、連結決算ではこれらの取引は消去されます。これにより、グループ全体の純資産が正確に反映されます。
⑤連結決算の勘定科目「のれん」について
連結決算の貸借対照表を見ると、「のれん」という勘定科目をよく見かけます。
これは、ある会社が別の会社を買収する際、支払った金額が買収された会社の資産の価値よりも高かった場合に発生するものです。
たとえば、子会社の純資産が100億円で、親会社が150億円で買収した場合、50億円がのれんとして計上されることになります。
のれんが発生する理由は、買収された会社が持つ、目に見えない価値があるからです。具体的には、
- ブランド力: 商品やサービスに対する消費者の認知度や信頼度
- 顧客基盤: 顧客の数が多く、安定した収益が見込めること
- 技術力: 特許やノウハウなど、競合他社との差を生み出す力
などが挙げられます。これらの要素が、会社の資産よりも高い価値を生み出していると判断されるため、のれんが発生するのです。
また、将来、買収された会社が大きく成長し、より多くの利益を生み出すと期待される場合にも、のれんが発生することがあります。
のれんの会計処理について
のれんは、日本の会計基準では、毎年一定の金額を費用として計上する必要があります。これは、のれんの価値が時間とともに減少していくことを反映した処理で、減価償却と呼ばれています。
特に、連結決算の貸借対照表に、企業規模に対して大きなのれんが計上されている場合、毎年支払う費用が大きくなり、会社の利益を圧迫する可能性があります。
さらに、買収した会社が期待したように成長できず、業績が悪化するような場合は、のれんの減損が発生するリスクがあります。
減損損失は、特別損失として計上され、当期の純利益を大きく減少させる要因となります。
⑥連結決算の勘定科目「為替換算調整勘定」について
海外に子会社を持つ企業は、連結決算の貸借対照表に「為替換算調整勘定」という勘定科目をよく見かけます。
これは、海外子会社の資産や負債を円に換算する際に、為替レートの変動によって生じる差異を調整するためのものです。
海外子会社の資産と負債は、決算日のレートで円に換算されます。一方、純資産は、会社がその資産を取得した時点のレートで換算されます。
- 海外子会社の資産と負債:決算日レート
- 海外子会社の純資産:取得日レート
そのため、為替レートが変動すると、資産と負債の合計額と、純資産の合計額が一致しなくなってしまうのです。
そこで、この差額を調整するために、「為替換算調整勘定」という勘定科目を使います。この勘定科目は、為替変動によって生じた含み損益のようなものです。
決算書での見方は、海外子会社を取得(もしくは設立)したときよりも、円高になると純資産の部にマイナス表示され、円安だと純資産の部にプラス表示されます。
以下は、良品計画の決算短信です。
参照:良品計画 2024年8月期 第3四半期決算短信 抜粋
上記を見ると、円安によって為替換算調整勘定が約129億円計上されています。つまり、海外子会社に関する含み益が膨らんでいるということです。
このように、企業の為替換算調整勘定を見ることで、為替変動による海外子会社の含み損や含み益がどのくらい発生しているかがひとめでわかります。
ちなみに、為替換算調整勘定の増減は、当期の損益には直接影響しません。
ただし、将来、海外子会社を売却したり、海外子会社が保有する資産を売却したりする際に、含み益や含み損が実現し、その時の為替レートによって、会社の利益に影響を与える可能性があります。
さいごに
ここまで、連結決算の読み方のポイントを解説してきました。
連結決算は、グループ全体の実力を知るために重要な決算書です。
そのため、親会社と子会社の収益を合算することや、グループ内取引の消去といった処理などを理解することで、連結決算をより深く読み解くことができます♪
【参考】決算書の読み方については、以下の記事で詳しく解説しています。