今回は、有価証券報告書の読み方をわかりやすく解説していきます。
有価証券報告書は、情報量やページ数が膨大なので、読んでいない個人投資家も多いのですが、実は投資に役立つ情報の宝庫です。
有価証券報告書にも目を通すことで、ほかの投資家と差を付けられます♪
有価証券報告書とは?
有価証券報告書とは、会社の成績表のようなものです。
上場企業は年に1回(決算日のおよそ3カ月後)、有価証券報告書で会社の経営状況を開示するルールになっています。
しかし、年に1回の更新では、投資家がタイムリーな情報を得て投資するのがむずかしいため、3カ月ごとに「四半期報告書」の作成・開示も義務づけられています。
四半期報告書は、簡易的な有価証券報告書というイメージ!
決算短信と有価証券報告書のちがい
それでは、私たちに馴染みの深い決算短信とのちがいは何なのでしょうか?
そもそも、有価証券報告書は決算日から3ヵ月以内、四半期報告書は決算日から45日以内に提出することが、法律で作成が義務付けられています。
しかし、投資家の立場からすれば、決算の情報は少しでも早く知りたいですよね。
そこで、東京証券取引所などの取引所が自主的に定めたルールで有価証券報告書や四半期報告書の速報版として開示されるのが、投資家に馴染みの深い「決算短信」です。
決算短信は、決算日から45日以内に開示するのが望ましいとされていますが、多くの企業が決算日から1か月程度の期間で提出しています。
このような背景から、投資家はもっともはやく決算の情報が知れる「決算短信」を重要視し、開示の遅い有価証券報告書は、古い情報と認識され話題にされにくいのです。
しかし、有価証券報告書には、決算短信では省略されている細かな情報が数多くのっているので、ぜひ有価証券報告書にも目を通すことをおすすめします!
決算短信は素早さ重視、有価証券報告書は内容の詳しさ重視!
有価証券報告書はどこでみれる?
有価証券報告書は、企業ホームページのIR情報にのっていることが多いので、インターネットで「会社名+有価証券報告書」と検索すればヒットします。
ほかにも、金融庁の「EDINET」で書類検索をおこなえば、すべての上場企業の有価証券報告書を閲覧できます。
有価証券報告書の中身は?
有価証券報告書は、情報量がとても多くページ数も100から200ほどあるので、すべてを読もうとすると挫折しかねません。
そこで、有価証券報告書にどんな情報が書いてあるのかを把握することで、必要な情報を効率よく読み進めることができます!
有価証券報告書は、
- 第一部【企業情報】★企業分析に役立つ
- 第二部【提出会社の保証会社等の情報】
- 監査報告書
で構成されています。このうち、企業を分析する際に役立つのは、第一部【企業情報】です。
有価証券報告書の読み方とポイント
それでは、有価証券報告書の第一部【企業情報】の中身を見ていきましょう。企業情報の目次は以下のとおりです。
- 第1【企業の概況】★重要
- 第2【事業の状況】★重要
- 第3【設備の状況】★重要
- 第4【提出会社の状況】★重要
- 第5【経理の状況】★重要
- 第6【提出会社の株式事務の概要】
- 第7【提出会社の参考情報】
このなかで、企業を分析する上で特に重要なポイントとなるのは、第1から第5までです。ひとつずつ見ていきましょう。
①企業の概況のポイント
まずは、【企業の概況】です。企業の概況は、おおむね以下の順番で書かれています。
- 1.主要な経営指標等の推移→業績や経営指標の推移
- 2.沿革→企業の歴史
- 3.事業の内容→事業のくわしい説明
- 4.関係会社の状況→子会社・関連会社の情報
- 5.従業員の状況→提出会社で働く従業員の情報
主要な経営指標の推移では、最大5年分の売上高・経常利益・1株利益・自己資本比率、株価収益率(PER)・従業員数など経営に関する情報がまとまっています。
それぞれの指標が改善しているかなどをチェックしていきましょう。
ちなみに、業績・財務などの経営指標など推移は、数字で見るよりも、マネックス証券の「銘柄スカウター」でグラフ化したものほうが理解しやすいのでおすすめです。
沿革
沿革には、「どんな事業から始めたか?」や「どんな会社を子会社化したか?」といった会社の歴史について書かれています。
会社の軌跡を把握するためにも、サラッと目を通しておきましょう。
事業の内容
事業の内容では、「どんな事業をして稼いでいるのか」について記載されています。
その企業がどんな事業で稼いでいるのかは、企業のホームページなどにも書かれていますが、有価証券報告書のほうが、詳細かつ具体的にかかれているので、必ずチェックしたい項目です。
関係会社の状況
関係会社の状況には、その会社の子会社や関係会社の情報がまとまっています。
子会社の事業内容や、所在地、決議権の所有割合がどの程度なのか(子会社の株式を何割保有しているかで、子会社の業績が親会社に与える影響が変わるため)を確認しておきましょう。
従業員の状況
従業員の状況では、平均年収・平均勤続年数・平均年間給料・セグメントごとの従業員数がわかります。※提出会社の状況の項目は、子会社は含まない親会社だけの情報です。
働いている人たちの情報から、企業の姿をイメージすることができます。
- 平均年齢:平均年年齢が低い会社は、若い人材を積極的に雇用していて成長に期待が持てそう
- 平均勤続年数:同業他社よりも短い場合、離職率が高く労働環境に問題があるかも?※「設立年数が浅い会社」や「新規採用した従業員の割合が高い」場合は短くなりやすいので例外
- セグメント別の従業員数:どの事業に力を入れているか(人員を割いているか)を読み取るのに役立つ
②事業の状況のポイント
つづいて、【事業の状況】です。事業の状況は、おおむね以下の順番で書かれています。
- 1.経営方針、経営環境及び対処すべき課題等→企業の方向性や経営の環境
- 2.事業等のリスク→自社のビジネスが抱えるリスク
- 3.経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析→特定の販売先に依存していないか?
- 4.経営上の重要な契約等
- 5.研究開発活動→新技術や新製品に関する取り組みがわかる
経営方針、経営環境及び対処すべき課題等
会社の経営方針、経営戦略、重視している経営指標、経営環境は、企業の方向性や、経営環境を読み取るためにも押さえておきたいポイントです。
対処すべき課題に、企業がどのような姿勢で向き合っていくのか?にも注目しましょう。
事業等のリスク
事業等のリスクには、企業の抱えているリスクが詳細に書かれています。
事業等のリスクは、企業の存続にかかわる重要なポイントです。「その企業がどんなリスクを抱えているのか?」をあらかじめ把握しておけば、何かあった際に適切な投資判断ができるので、目を通しておきましょう。
- 事業内容や環境的なリスク要因:競合先の増加、需要の減少など
- 経営成績に変動がある:景気や季節に売上が左右される、為替変動の影響を受けやすいなど
- 特定の取引先や製品への依存度が高い:何らかの理由でダメになったとき業績に重大な影響が出る
- 特定の人物への依存度が高い:経営に関する意思決定が創業者などに依存している場合、何らかの理由で業務困難になると業績に影響が出る
リスクのないビジネスは存在しません。そのため、経営者が自社のリスクを具体的に認識できているか?やリスクを軽減するための対策を取っているかに注目してみましょう。
経営者による財務状況・経営成績及びキャッシュフローの状況の分析
経営者による財務状況・経営成績および、キャッシュフローの状況分析では、決算短信にはのっていない「生産・受注および販売の実績」に注目しましょう。
販売実績は、全体売上の10%以上を占める主要な販売先がある場合に、直近2期分の販売実績と売上全体に対する割合が書かれています。
記載のある場合は、「主要な取引先はどこか?」や「どの程度の割合を占めているのか」を確認しておきましょう。
また、売上の30~40%以上が特定の企業に依存している場合、相手先の経営状況に売上が左右されるリスクがあるので注意が必要です。
売上の割合が、特定の企業に依存し過ぎていないか確認しよう !
研究開発活動
研究開発費用を何に使ったのか(企業の新技術や新商品など新たな取り組みなど)、どんな成果が出たのなどかがわかります。
研究開発費の使い道から、企業がどの事業に力を入れているのかが読み取れる重要なポイントです。
➂設備の状況のポイント
つづいて、【設備の状況】です。設備の状況は、おおむね以下の順番で書かれています。
- 1.設備投資等の概要→1年間におこなった設備投資の内容
- 2.主要な設備の状況→企業が所有・貸借している設備の状況
- 3.設備の新設、除去等の計画→今後、計画している設備投資の内容
設備投資等の概要
設備投資等の概要には、この1年で実施した設備投資金額と、設備投資の目的や内容が書かれています。企業が何に投資したのか?を確認しておきましょう。
設備投資の内容や金額から、「どの事業に積極的に投資し拡大するのか」や、「どの事業を撤退・縮小していくのかな」が読み取れる場合もあるので要チェックです!
設備投資は、企業が成長するのにかかせない費用!
主要な設備の状況
主要な設備の状況では、企業が所有・賃借する設備の状況や、帳簿価額(会計上の資産や負債の評価額)がわかります。
賃借している設備(本社や倉庫など)に関しては、設備の内容や年間賃借料が記載されています。
設備の新設、除去等の計画
設備の新設、除去等の計画では、企業が有価証券報告書を提出した時点での、重要な設備の新設、拡充、売却などの計画が書かれています。
記載のある場合には、具体的な内容(設備の内容・場所・投資金額など)や資金の調達方法(増資・借入・自己資本など)をチェックしましょう!
どんな事業に設備投資をおこなう計画なのか、投資規模はどのくらいなのかを把握することで、将来の業績を予想するのに役立ちます。
④提出会社の状況のポイント
つづいて、【提出会社の状況】です。提出会社の状況は、おおむね以下の順番で書かれています。
- 1.株式等の状況→大株主の状況
- 2.自己株式の取得の状況
- 3.配当政策→企業の配当金に対する考え方
- 4.コーポレートガバナンスの状況等→企業の保有株や役員の状況
株式等の状況
大株主の状況からは、「どのような株主構成になっているか?」が読み取れます。
たとえば、社長や役員が大株主欄にのっている企業のほうが、自社を成長させるモチベーションが高い傾向にあります。株価の上昇が自身の利益につながり、投資家と利害関係が一致しやすいからです。
また、時価総額の低い小型株の場合は、大株主も変動しやすいので過去の有価証券報告書と比較してみることをおすすめします。
コーポレート・ガバナンスの状況等
役員の状況には、会社を経営している人たちの経歴が書かれています。
社長は創業者なのか?今までどんな経験をつんできた人たちなのか?同族経営か?など、どんな経歴の人が経営しているのかがわかります。
株式の状況では、会社の保有している株式の内容について書かれています。
具体的にどこの株式を保有しているのか、なぜ保有しているかなどが確認できます。
保有する株の株価が大きく下がると、特別損失が出る場合もあるので、「どんな株を保有しているのか?」は知っておくと役立ちます。
⑤経理の状況のポイント
さいごは、【経理の状況】です。経理の状況は、おおむね以下の順番で書かれています。
- 1.連結財務諸表等
- 2.財務諸表等
経理の状況では、企業の財務状況が書かれています。
特に、販売費及び一般管理費の明細、売上原価の明細、固定資産の明細など、決算短信では省略されている費用や原価の詳細な内訳は要チェックです。
販管費及び一般管理費であれば、「給料を具体的にいくら支払っているのか?」「減価償却費はいくらかかっているか」の確認などに活用できます。
さいごに
ここまで有価証券報告書の見るべきポイントを紹介してきました。
有価証券報告書には、決算短信ではわからない情報が豊富に書かれています。
ページ数が多く読み進めるのが大変な有価証券報告書ですが、「どこに何が書いてあるのか?」を把握しておけば、必要な情報を効率的に拾うことができます。
また、決算短信の見方は以下の記事でまとめているので、あわせて参考にしてみてください♪