近年、大企業やグローバル企業を中心に会計方針を日本基準からIRFSに変更する企業が増えてきました。
会計基準が日本基準からIFRSに変更されると、企業業績に変化がなくても見かけ上の売上や利益が変わることがあります。見かけ上の数字に惑わされないためにも、IFRSと日本基準で何が変わるのかを知っておくことが大切です。
そこで今回は、IFRSと日本基準のちがいについて解説しますので、ぜひ参考にしてみてください♪
IFRSとは?
IFRSとは、日本語で国際会計基準という意味で、世界共通の会計ルールのことを言います。(イファース・アイファースなどと呼ばれます。)
もともと企業が財務諸表を作成する際のルール(会計基準)は、「日本基準」や「米国基準」など、国によって異なっていました。しかし、世界中で会計のルールが異なると、他国の企業との比較がむずかしくなってしまいます。
そこで、世界中の企業が同じルールで財務諸表を作成できるように作られたのが「IFRS」です。IFRSを導入することで、自国と他国の業績を比較しやすくなるので、自社を海外の投資家にアピールしやすくなるメリットがあります。
実際、日本でも大企業を中心に日本基準からIFRSへ変更する企業が増えています。
IFRSと日本基準の違いを覚えておこう!
損益計算書のちがい
まずは、企業の業績に関わる「損益計算書のちがい」から見ていきます。
IFRSと日本基準では、売上高の金額、売上の計上タイミング、のれんの償却方法などか変わってきます。これらは見かけ上の業績に影響する部分なので、どこが変わるのか覚えておくと、いざという時に慌てなくて済みます。
売上高が変わる
日本基準とIFRSでは、同じ企業でも売上高が変わってしまうことがあります。
日本基準の場合、取引先に請求した全額を売上高として計上することができます。
一方のIFRSでは、外注費や税金(たばこ税、ガソリン税、酒税など)は売上に含めることはできません。ほかにも、在庫リスクを負わない販売では、売上高は純額(売上高ー売上原価)だけを計上するルールとなっています。
このようにIFRSは、「実質的な売上だけを認識する」という考え方なので、見かけ上の売上を大きく見せることはできません。そのため、業種によっては、日本基準からIFRSへ変更することで見かけ上の売上が大きく減ってしまう企業もあります。
過去の例ですが、日本たばこ(JT)は、2012年3月期からIFRSを導入しました。その結果、売上高は、6.2兆(日本基準)から2.2兆(IFRS)へ大きく減ることになりました。
日本基準では、たばこ事業の6割を占めていた「たばこ税」を売上として計上できていました。しかし、IFRS導入後は売上に含めることができなくなったからです。
(マネックス証券の銘柄スカウターより)
売上が大幅に減り、見かけ上は業績が大きく悪化したようにも見えますが、その分原価も減るので、営業利益や当期純利益には影響はありません。(日本基準では、税金や外注費を売上で計上して、売上原価で差し引いています。)
また、IFRSを導入して売上が減ったとしても営業利益は変わらないので、見かけ上の営業利益率は大幅に改善したようにみえます。しかし、実際に収益性が高まったわけではないので注意しましょう。
このように会計方針の変更で、業績が大きく変わったように見えることがありますが、会計上の数字が変わっただけなので惑わされないようにしましょう!
日本基準でもIFRSと整合性をとるために、新しく収益認識(売上高)基準が適用されることとなり、これまであいまいだった収益認識が明確化されることとなりました。これにより業種によっては、売上が大幅に変わる可能性があります。※2021年4月以降に開始する会計年度から適用
例)代理店の販売は、報酬または手数料の金額だけを収益とする。返品保障がついている場合、返品予想額を算出して売上高と売上原価から差し引くなど。
売上の計上タイミングが変わる
日本基準とIFRSでは、売上を計上するタイミングが変わります。
現時点では、日本基準は、取引先へ商品を出荷した時点や、サービスを提供した時点で売上が発生する考え方をします。そのため、相手が受け取っていなくても売上として計上できていました。
一方でIFRSは、発送した商品や提供したサービスを取引先がチェックし、問題ないことを確認したのちに売上として計上することになります。
日本基準よりもIFRSのほうが、売上の計上タイミングが遅くはなるものの、架空の売上を計上することがむずかしくなるので信頼性は高まります。
のれんの償却方法が変わる
企業を買収した際に、買収先の純資産よりも買収金額が高かった場合、その差額が「のれん」として計上されます。
IFRSと日本基準では、「のれんの償却方法」に大きな違いがでるのですが、その結果として見かけ上の利益が大きく変わることがあります。
まず日本基準では、のれんは20年以内に償却しなければなりません。
そのため、巨額の買収をおこなった場合、日本基準の企業であれば、のれんの償却が終わるまで、毎年のれん代を費用を計上しなければならず、その分利益が減ってしまうことになります。
日本基準では、のれん代以上の利益を出さないと営業赤字に見えてしまうので、利益成長が求められる上場企業では、のれんの償却費が重たくのしかかってくるのです。
一方で、IFRSであればのれんの定期償却が不要となります。定期償却をしなくて済むので、その分見かけの利益が大きくなります。
先ほど紹介した日本たばこ(JT)は、のれん償却費が営業利益を削っていましたが、2012年3月期のIFRS導入したことで、のれんの定期償却が不要となり見かけ上の営業利益が約800億円ほど増えました。
(マネックス証券の銘柄スカウターより)
ただし、IFRSの導入で見かけの利益が増えた場合、将来的なリスクは増える点には注意が必要です。仮に買収した会社が、事業計画通りにいかなかった場合には、減損損失分を一気に費用として計上しなければならないからです。
※減損損失:資産の収益性の低下により、投資をした金額を将来回収する事が見込めなくなった場合、回収できる金額まで低下させる処理
日本基準でも、業績不振により減損損失を計上する事はありますが、毎年償却している分、損失額は少なくて済みます。
IFRS適用企業で、バランスシートの「のれん残高」の大きい企業は、将来的に減損が発生するリスクも高めなので注意しましょう。
利益と費用の計上方法が変わる
IFRSと日本基準では、利益と費用の計上方法も変わります。
以下の図は、日本基準とIFRSの損益計算書を比較しています。それぞれのちがいを見ていきましょう!
IFRSは営業損益と投資損益を分ける
日本基準の営業外収益は、「受取利息・受取配当金」のような財務活動で生じた利益と、「その他営業外利益」の営業活動で生じた利益が一緒になっています。
しかし、IFRSの場合は営業活動による損益は「その他の営業収益・費用」に、財務活動による損益は「金融収益・費用」へと区別するルールになっています。
日本基準では、財務活動の収益と営業活動の収益が混ざっていますが、IFRSではこれらをきちんと区別しているので、営業利益がより事業の実態を反映する形になります。
経常利益がなくなる
日本基準ではお馴染みの「経常利益」はIFRSでは無くなります。経常利益は日本独自のもので、海外にはその概念が存在しないからです。
IFRSは特別利益・特別損失がなくなる
日本基準の場合、特別な事情で生じた損益を特別利益・特別損失として計上します。
- 特別利益の例:固定資産の売却益、投資有価証券の売却益など
- 特別損失の例:投資有価証券売却損、災害損失、損害賠償損失など
一方のIFRSでは、企業の収益や費用に特別なものは存在しないとの考えから特別利益や特別損失を区別して計上することを禁止しています。
そのため、特別利益は「その他の営業収益」、特別損失は「その他の営業費用」として営業利益内に含むことになります。
IFRSは包括利益が導入される
IFRSを適用している企業は、包括利益計算書の開示が必要になります。包括利益とは、「まだ確定していない利益」です。
包括利益計算書では、当期期間中の「企業が保有している株や債券などの含み損益」、「保有土地の含み損益」、「為替の損益」などの増減を加味した包括利益が開示されます。
貸借対照表のちがい
日本基準の「貸借対照表」は、IFRSでは「財政状態計算書」に変わります。
また、日本基準では、流動資産と固定資産、流動負債と固定負債でしたが、IFRSでは、流動資産と非流動資産、流動負債と非流動負債に変わります。
さいごに
ここまで、IFRSと日本基準のちがいについて解説してきました。IFRS導入で何が変わるのかを把握しておけば、保有株などの決算がIFRSに代わっても慌ずに対応できると思います。
また以下は、IFRSの勉強をするにあたり参考にした書籍です。気になる方はチェックしてみてください。
「100分でわかる! 決算書「分析」超入門」
決算書の読み方について、イラスト付きで分かりやすく解説している書籍です。IFRSについてもやさしく解説されています。
「IFRSで企業業績はこう変わる」
やや古めの書籍ですが、IFRSを導入すると何が変わるのか丁寧に解説されています。