企業を経営する場合に、「どのくらいの利益を稼げるか?」といった経営計画を立てることは重要です。
そこで役立つのが「損益分岐点」の考え方です。損益分岐点は、黒字を確保するためにどのくらい売上が必要なのかを予測することができます♪
損益分岐点とは?
損益分岐点とは、売上から費用を引いた損益がゼロになる売上高のことを指します。また、損益分岐点となる売上を「損益分岐点売上高」と呼びます。
損益分岐点となる売上高を計算することで、どのくらい売上があれば良いか、どれだけ利益がでるかなどを考える目安となります。
- 損益分岐点以上の売上を稼げると利益はプラス
- 損益分岐点以下の売上しか稼げないと利益はマイナス
損益分岐点の計算方法
損益分岐点は、以下の計算式を使って求めることができます。
損益分岐点=固定費÷{1-(変動費÷売上高)}
計算式からわかるように損益分岐点を求めるためには、固定費と変動費の2つの費用がポイントとなります。
変動費と固定費のちがい
まず、変動費とは、売上に変動して発生する費用です。変動費には、材料費・販売手数料費・外注費などが該当します。
売上が減れば変動費も減り、売上が増えれば変動費も増える…というように、売上と変動費は比例関係にあります。
一方の固定費とは、売上に関係なく発生する費用です。固定費には、人件費・家賃・光熱費・減価償却費などが該当します。
固定費は、売上の増減に関係なく一定額発生する費用です。
上記の図のように、売上の増加に比例して金額が増える費用が「変動費」、売上が増えても金額が変わらない費用が「固定費」です。
固定費と変動費の割合で損益分岐点は変わる!
それでは、実際に以下の2社の損益分岐点を計算してみます。同じような業種であっても、変動費と固定費の割合によって、損益分岐点が変わる点に注目してください。
A社:変動費の割合が高い店(イメージ:地方のラーメン屋さん)
- 商品単価800円(売上)
- 材料費400円(変動費)
- 家賃や人件費など月10万円(固定費)
B社:固定費の割合が高い店(イメージ:都心部のラーメン屋さん)
- 商品単価1200円(売上)
- 材料費400円(変動費)
- 家賃や人件費など月30万円(固定費)
損益分岐点売上高のちがい
まずは、売上-費用=ゼロとなる損益分岐点売上高(1か月)を、損益分岐点売上高=固定費÷{1-(変動費÷売上高)}に当てはめて計算していきます。
A社の損益分岐点売上高は、100,000円÷{1-(400円÷800円)}=200,000円です。20万円(250杯)で損益がゼロとなり、20万円以上売れると収支がプラスになります。
同様に、B社の損益分岐点売上高は、300,000円÷{1-(400円÷1200円)}≒450,000円です。45万円(375杯)で損益がゼロとなり、45万円以上売れると収支がプラスになります。
このように、変動費の割合が高いA社のほうが、損益分岐点売上高が低く黒字化しやすいのがわかります。
変動費の割合が高いほど、黒字化しやすい!
利益のちがい
続いて、月に1000杯売れた場合の利益を計算してみます。利益は、売上高-費用(変動費+固定費)で求められます。
1000杯売れた場合のA社は、売上800円×1000杯=800,000円、変動費(400円×1000杯=400,000円)、固定費(100,000円)です。利益は、800,000円-(400,000円+100,000円)=300,000円で、プラス30万円になります。
同様に1000杯売れた場合のB社は、売上1200円×1000杯=1,200,000円、変動費(400円×1000杯=400,000円)、固定費(300,000円)です。利益は、1,200,000円-(400,000円+300,000円)=500,000円で、プラス50万円になります。
このように、損益分岐点を超えたあとは、固定費の割合が高いB社のほうが、利益を大きく稼げることがわかります。
固定費の割合が高いほど、売上拡大時に利益を稼ぎやすい!
変動費と固定費、どちらの割合が高いほうが良い?
このように、固定費と変動費の割合によって、利益の出方が変わってきます。では、変動費比率の高い企業と、固定費比率の高い企業のちがいをもう少し深堀りしてみていきます。
変動費比率の高い企業
まず、変動費比率の高い企業は、ローリスク・ローリターンの傾向にあります。
変動費率の高い業種は、家電量販店やスーパーなどが挙げられます。
<メリット>
- 損益分岐点が小さいため、黒字化しやすい。
- 売上が減ると変動費も減るため赤字になりにくい。仮に赤字となっても固定費が少ないぶん大きな損失になりにくい。
- 初期コストが少なくて済む。
<デメリット>
- 変動費の割合が高いため、損益分岐点を超えても大きな利益を得にくく、あまり儲からない。
- 利幅が少ないため、安易な値下げをおこなうと利益が無くなるリスクがある。
- 初期コストが少ないため、新規参入企業(競合)が比較的多い。
固定費比率の高い企業
一方で、固定費比率の高い企業は、ハイリスク・ハイリターンの傾向にあります。
固定費比率の高い業種は、鉄道や航空、テーマパーク、ソフトウェアを提供するITサービス業などが挙げられます。
<メリット>
- 変動費の負担は少ないため、損益分岐点以上の売上が稼げた場合は、大きな利益を得ることができる。
- 初期コストが多額であるため、新規参入企業(競合)が比較的すくない。
<デメリット>
- 損益分岐点が大きいため、黒字化するためハードルが高い。
- 多額の初期コストが必要。
- 売上が減っても固定費は発生するため赤字転落するリスクが高い。仮に赤字となった場合、固定費が多い分損失も多額になりやすい。
実際のビジネスでは、売上拡大には固定費の増加をともなう
ここまで、固定費は一定で変動費は売上に比例すると説明してきました。
しかし、実際のほとんどのビジネスでは、売上を大幅に拡大するためには店舗や社員数を増やすといった固定費の増加をともなうことになります。
アパレルショップを例に考えてみます。アパレルショップが1店舗に限ると、売上が増えた際に負担が増えるのは変動費です。
しかし、1店舗で稼げる売上には限界があり、より売上を拡大するためには、店舗数や社員数を増やす必要があります。つまり、固定費は一定ではなく、新規店舗を出店するたびに増えていくというわけです。
ただし、同じようなアパレル系の業種であっても、ビジネスモデルによっては固定費の増加がゆるやかになる場合もあります。
まずは、ワークマンのようにフランチャイズチェーン(FC)店舗が多いケースです。9割以上がFC店舗のワークマンは、FCオーナー側が人件費を負担しているため固定費を抑えた経営に成功しています。
ほかにも、インターネットを使って通信販売するイーコマース業は、売上拡大にともない、人件費や倉庫賃料などの固定費は増えるものの、実店舗を持つ企業と比較すると固定費の伸びはゆるやかになります。
ビジネスモデルによって変動費と固定費の割合は変わる!
さいごに
ここまで、損益分岐点の見方について紹介してきました。変動費と固定費の割合によって、儲かりやすさや赤字のリスクが変わってくるのは面白いですね。
ただし、残念ながら上場企業の決算書の費用は、売上原価と販売管理費で区別されています。そのため、変動費と固定費の割合を細かく把握することはむずかしいのです。(主な費用の内訳は、有価証券報告書で確認できます。)
それでも、ビジネスモデルから固定費と変動費のどちらの割合が高いか?や、売上拡大にともない固定費は増えやすいか?などはイメージできると思うので、損益分岐点の考え方を知っておいて損はないと思います♪