コロナの影響もあり、減損損失を計上する企業が増えています。そこで今回は、「減損とは何なのか?」や「減損が業績に与える影響」についてくわしく解説していきたいと思います!
減損とは?
企業は、事業をおこなうために土地・工場・建物などの固定資産に投資をおこないます。その理由は、投資によって投資額以上の儲けを期待しているからです。
しかし、すべての投資が期待どおりに上手くいくわけではありません。ときには、想定外の事態によって、投資額以上の利益を得るどころか、投資額すら回収できないこともあります。
このような事態が判明した時点で、回収できない部分の金額を切り下げる必要があります。これを「減損」と言い、減損した金額は損益計算書に特別損失として計上されます。
減損をおこなう理由は、貸借対照表に計上されている資産の金額が、将来の回収見込み額よりも高くなってしまうと、資産を過大に計上していることになり、企業の実態を適切に反映してると言えなくなるからです。
※貸借対照表に計上されている金額は、取得原価ではなく、現時点での帳簿上の金額である帳簿価額(取得原価から今まで発生した減価償却費の合計金額を差し引いたもの)です。
貸借対照表の金額と回収見込み額に乖離がある!
減損の流れ
企業の減損を簡単な例で説明します。
とある企業が飲食店の運営をしていたものの、流行が過ぎてまったく売上が上がらなくなってしまいました。このとき、貸借対照表には土地や店舗が資産として10億円計上されています。
しかし、稼げる見込みがなくなった以上、この飲食店に10億円分の資産価値があるとは言えなくなります。将来の回収見込み額が帳簿価額よりも激減していると判明したので減損をおこないます。
減損の金額は、①正味売却価額(資産を売却して得られる金額)、②使用価値(資産を使って得られる金額)のいずれか大きいほうを選択することになります。
仮に①正味売却価額が4億円、②使用価値が2億だったすると、①の今売却したときの価格のほうが回収見込み額が高いことになります。
その場合、帳簿価額10億円、回収見込み額4億となり、差分の6億円の「減損損失」を特別損失として計上することになります。
減損の兆候
減損が発生する兆候には、以下のような状況が考えられます。
- 営業利益から生じる損益等が継続してマイナス→おおむね過去2期がマイナス
- 回収可能価額を著しく低下させる変化がある→工場の稼働率や生産効率の著しい低下、操業停止など
- 市場価格の著しい下落がある→簿価から価値が50%以上下落
- 経営環境の著しい悪化がある→材料費の高騰、法律の改正など
減損の影響(マイナス面)
純利益が圧迫される
減損損失は、特別損失として計上されます。結果、その期の純利益が圧迫されてしまい、本業が好調でも、減損の金額によっては純利益がマイナスになることもあります。
純利益がマイナスの場合、その分だけ純資産も減ってしまいます。純資産がマイナスになると、債務超過となり、解消できなければ上場廃止になる場合があるので、要注意です。
ちなみに、純資産が減ると自己資本比率も低下してしまいます。
短期的に株価が下がりやすい
減損による下方修正となると、数字の見栄えが良くないことや、下方修正というネガティブなイメージが先行するため、一旦は株が売られやすくなります。
しかし、後述しますが長期的には株価が上昇する要因になる場合もあります。
減損の影響(プラス面)
翌期以降の業績が回復しやすい
企業が固定資産を取得した場合、数年から数十年かけて減価償却をおこないます。
そのため、巨額の投資をおこなった場合、減価償却が終わるまで、毎年費用を計上しなければなりません。減価償却費によって利益が圧迫されるため、利益の見栄えは悪くなりやすいのです。
一方で、減損処理をおこなうと、その期は多額の損失が計上されるので利益が大きく減ります。しかし、翌期以降の減価償却費が大幅に軽減されるので、将来の利益の見栄えが良くなりやすいのです。
ただし、減価償却費の負担が軽くなったことで利益が出やすくなったことを、不採算事業の業績自体が良くなったと勘違いしないように注意は必要です。
のれんの減損で利益が出やすくなる例
減損によって見かけの利益が出やすくなることをアートスパークHDを例を紹介します。
アートスパークHDのメイン事業は、クリエイターサポート事業(マンガ・イラスト・アニメ制作ソフト「CLIP STUDIO PAINT」販売)です。そのほかに、UI/UX事業(自動車中心の組込ソフト開発)を手がけています。
以下は、事業セグメント別の利益です。参照:マネックス証券の銘柄スカウター
クリエイターサポート事業は右肩上がりに成長しているものの、UI/UX事業は赤字が拡大していますね。
UI/UX事業の赤字の理由は、事業がうまくいっていないことに加え、10億円以上かけて買収した企業ののれん償却負担が重く、利益を圧迫していることが原因です。
2019年は、クリエイターサポートで6.9億円の利益を稼いでいたものの、UX/UI事業の4.4億円赤字が足を引っ張り、営業利益は2.4億円ほどにとどまっています。
そんな中、アートスパークHDは2020年11月にUI/UX事業の「のれんの減損」を発表ました。結果、2021年以降の「のれんの償却費」負担が4.2億円から1.2億円に大きく減少し、営業利益を押し上げる計画となっています。
参照:アートスパークHD 中期経営計画より
不採算事業の業績がよくなったわけではないのに、減損で翌期以降の営業利益が出やすなるイメージは伝わったでしょうか。
翌年の収益性指標が改善しやすい
ほかにも、減損の翌期は収益面の指標は改善しやすくなります。
- 特別損失は一時的な損失なので、翌年は特別損失の計上がなくなる分、純利益が増えやすくなる。その結果、PERも切り下がりやすい。
- 翌期以降、減価償却費の負担が軽減されると営業利益が出やすくなる。その結果、営業利益率も改善する。
- 減損によって純資産が減った場合、投資効率を表す指標であるROAが改善する。
リスクの高い減損とは?
減損による下方修正となると、一旦は株が売られやすくなります。しかし、減損は企業の膿だしと考えて長期的な成長に期待するのはアリだと思います。
本業が順調な一方で売上貢献の少ない事業で赤字が続き足を引っ張ている場合などは、不採算事業の減損によって翌期以降の不採算事業の回復+本業の成長が期待できると思います。
例えば、東京都競馬は、本業の公営競技は順調に成長しているものの、東京サマーランドの運営を手がける遊園地事業が毎年赤字で、全体の利益を押し下げていました。(下記ミドリ色の折れ線グラフ)
以下から分かるように、遊園地事業は売上の構成比が小さいものの、利益が赤字でほかの事業の足を引っ張ています。
参照:マネックス証券の銘柄スカウター
2020年12月東京都競馬は、コロナの影響を理由に遊園地事業の減損を発表しています。このような場合の減損は、翌期以降の減価償却費負担が軽くなる(赤字幅が縮小しやすくなる)ことを考えると悪くはないように思えます。
反対に、減損の金額が大きすぎて純資産がマイナスになる企業や、売上の大部分を担っている事業の減損のように、企業の先行き自体が不透明になるような減損はリスクは高いのではないでしょうか。
さいごに
ここまで、減損について解説してきました。
「減損」や「下方修正」などと聞くと反射的に株を売りたくなるかもしれません。しかし、中身をよく確認すると実はそれほど問題ではないこともあります。また、知識として知っておくことでいざという時に焦らずに済むのではないでしょうか。
余談ですが、企業分析をするときには、全体でみるのではなく、セグメントごとに見る癖をつけることでより正確に企業の実態を把握できます。自分で調べるのは労力を使うので、この記事で使ったマネックス証券の銘柄スカウターの利用をおすすめします♪