今回は、貸借対照表を使って安全性を分析する方法について紹介します。優良企業と危ない企業の見分け方を図解で詳しく解説していくので、ぜひ参考にしてみてください。
- 貸借対照表とは
- ポイント1.負債と純資産の割合を比較する
- ポイント2.資産と負債を「流動」「固定」に分けて細かく比較
- ポイント3.流動資産のうち換金性の高い資産の金額をチェック
- ポイント4.流動負債のうち将来お金が出ていかない負債はある?
- 【注意】資金繰りの厳しさは業種でも変わる
- さいごに
貸借対照表とは
貸借対照表は、会社が設立されてから現在までに「どうやってお金を集めて、何に使ったか?」を記録したものです。
貸借対照表は、「資産」「負債」「純資産」の3つの部にわかれています。
- 資産:現金や有価証券・まだ売れていない商品・工場・機械など将来会社の収益が生まれるものを指します。
- 負債:銀行や社債を発行して借りたお金を指します。(返済義務あり)
- 純資産:企業が今まで自分で稼いできた利益や株主に出資してもらったお金です。(返済義務なし)
貸借対照表を活用することで企業の安全性、すなわち倒産するリスクがどの程度あるのかを知ることができます。
なお、決算書の貸借対照表はむずかしい漢字や金額の大きい数字の羅列で、慣れるまではややこしいのが難点です。そこで、決算書の内容を自動でグラフ化できるマネックス証券の「銘柄スカウター」を活用するとスムーズに分析できます♪
それでは、貸借対照表で安全性を分析していきましょう。
ポイント1.負債と純資産の割合を比較する
まずは、貸借対照表の右側の負債と純資産の割合から企業の安全性をざっくり把握していきましょう!
上記の図にあるように、負債は、金融機関からの借入や社債を発行して集めた借りて集めたお金で返済義務があります。
一方で、純資産は、株主からの出資で集めたお金と企業がこれまでに稼いだ利益なので、返済義務はありません。
そのため、返済義務のある「負債」の割合が高いほど安全性が低くなり、返済義務のない「純資産」の割合が高い企業のほうが安全性が高くなります。
まずは負債と純資産の割合で安全性をざっくりと把握しよう!
「自己資本比率」で安全性をチェック
そして、負債と純資産の割合を数値化したものが、安全性を表す代表的な指標の「自己資本比率」です。
自己資本比率=純資産÷資産×100
一般的には自己資本比率が50%以上だと、負債よりの純資産が多い状態なので健全と判断できます。
なお、安全性と収益性の両立はむずかしく、収益性を優先すると安全性が低下する傾向にあります。
そのため、成長企業は銀行借入などで積極的に先行投資すると、自己資本比率が50%以下になる場合もありますが、収益性の高まりを考えると一概に悪いとは言えません。
とはいえ、自己資本比率が20%以下やマイナスの企業は、倒産するリスクが高く危険です。※例外として金融業や不動産業など業務の性質上、自己資本比率は10%前後が普通の業種もあります。
ポイント2.資産と負債を「流動」「固定」に分けて細かく比較
ここまでは、資産・負債・純資産で分類していました。次は、資産と負債を「流動」「固定」にわけて、短期的な資金繰りに問題がないかをチェックしていきましょう。
- 流動資産:1年以内に現金化できる資産、営業サイクルにおいて発生する債権
- 固定資産:企業で長期間使う目的で購入した資産で、1年を超えて使うもの
- 流動負債:1年以内に返済しなければならない借金、営業サイクルにおいて発生する債務
- 固定負債:返済期限まで1年以上の猶予がある借金
資産の部「流動資産」と、負債の部「流動負債」の金額バランスを比較することで、企業の短期的な資金繰りに問題ないかを調べることができます。
流動資産と流動負債のバランスで判断する理由は、流動資産が「1年以内に現金化できる資産」、流動負債が「1年以内に返済する借金」を表しているからです。
流動負債の割合に対して流動資産が多ければ多いほど、短期的な資金繰りに余裕が生まれます。反対に、流動資産よりも流動負債のほうが大きいと、短期的な資金繰りが苦しくなることが想像できます。
「流動比率」で短期的な資金繰りを見抜く
流動資産と流動負債の割合を数値化した指標が「流動比率」です。流動比率を計算式で求める場合は、以下のとおりです。
「流動比率」=「流動資産」/「流動負債」×100
流動比率が高ければ高いほど資金繰りに余裕がでます。目安としては、流動比率が200%を超える企業は安心できます。
一方で、流動比率が100%を下回っていると、1年以内に資金が足りなくなるおそれがあり注意が必要です。
ポイント3.流動資産のうち換金性の高い資産の金額をチェック
短期的な資金繰りについて「流動比率」で求められることがわかりました。しかし、いくら流動比率が高くても、流動資産の中身によっては安全性に疑問が残るケースもあります。
そこで今度は、流動資産の中身を「当座資産」、「棚卸資産」、「その他の流動資産」に分類して分析してみましょう。
- 当座資産:現預金と特に現金化しやすい資産。「現金」「売掛金」「受取手形」「有価証券」など
- 棚卸資産:企業が抱えている在庫。「商品」「原材料」「仕掛品(作り途中の製品)」など
- その他の流動資産:「短期貸付金」「前払い金」「前払費用」など
上記のうち、当座資産は現金と現金に近い資産です。
一方で、棚卸資産は商品や製品が売れない限り現金化することはできません。また、売れ残った在庫を抱えているケースでは割引しないと売れないことも多く、額面どおりの価値があるとは言い切れません。
ほかにも、その他流動資産の「前払い金」や「前払い費用」は、あらかじめ支払っているお金で、資産には計上されていますが、すでに支払い済みなので実際に現金化することはできません。
そこで、安全性を厳密に計算する場合には、換金性の高い「当座資産」と流動負債を比較してみましょう。
以下のように、流動比率(流動資産と固定資産の割合)だけ見ると安全性が同じように見える企業でも、実際は換金しやすい当座資産が多いほうが安全性が高まります。
「当座比率」でより厳密に資金繰りをチェック
当座資産と流動負債の割合を数値化した指標が「当座比率」です。流動比率を計算式で求める場合は、以下のとおりです。
「当座比率」=「当座資産」/「流動負債」×100
※当座資産=「現預金・有価証券・売掛金・受取手形の合計」から「貸倒引当金(貸したのに返ってこないリスクがある費用)」を引いた金額。
当座比率が高ければ高いほど資金繰りに余裕がでます。目安としては、流動比率が100%を超える企業は安心できます。
ポイント4.流動負債のうち将来お金が出ていかない負債はある?
さいごに、流動負債の中身についても確認しておきましょう。流動負債に含まれる主な負債は以下の通りです。
- 仕入債務:商品や材料など買い、支払いを後回しにしているお金。「買掛金」「支払手形」など
- 短期借入金:銀行などに借りているお金のうち、返済期限が1年以内のもの。
- 引当金:将来発生する可能性の高い損失に対して、あらかじめ費用をつんでおくもの。「賞与引当金」、「退職引当金」など
- 前受金・前受収益:将来の利益の繰延。
仕入債務や短期借入金は、将来お金が出ていく負債です。
一方で前受金や前受収益は、まだ提供していない商品やサービスの代金を先に受け取った場合に使う勘定科目です。
前受金や前受収益は、将来の利益の繰延ですので、実際にお金が出ていくわけではありません。それどころか、将来の売上となる必要な負債なのです。
そのため、一見流動負債が多く見えても、業種によっては前受金・前受収益が含まれている可能性もあります。
【注意】資金繰りの厳しさは業種でも変わる
ここまで、基本的な安全性分析の方法を紹介してきました。しかし、実際はビジネスモデルも考慮する必要があります。
その理由は、企業のおこなう事業の性質によって売上と入金のタイミングに差が出るからです。
資金繰りに余裕が出やすい業種
手元に現金がすぐ入りやすい業種は、流動比率や当座比率が低くても心配ない場合が多くなります。
サービスの提供前に代金を受け取れるビジネス
例えば、学習塾や英会話スクールのように、サービスを提供する前にお金を受け取れるビジネスは、先に顧客から代金を受け取れるので資金繰りに余裕が出ます。
回収した代金を買掛金の支払いや、家賃・従業員の給料の支払いなどに充てることができるからです。 また、代金を先に受け取れるので、代金が回収できない貸倒れリスクもありません。
売上と同時に代金を受け取れるビジネス
小売業・スーパーマーケット・コンビニ・鉄道会社など売上と同時に代金を受け取れるビジネスのも、受け取ったお金をすぐ、支払いに充てられるので資金繰りに余裕が出ます。
この場合も、貸倒のリスクがほぼありません。
運転資金が少なくて済む!
資金繰りが苦しくなりやすい業種
一方で、売上から入金までに時間のズレがある業種は、流動資産の割合が高くても資金繰りが苦しくなる場合があります。
入金までに時差があるビジネス
例えば、介護・福祉業では患者さんが全額支払わず、国が費用の一部を負担している場合も多いですよね。その場合は、いったん自社で立て替えることになります。
企業は、立て替えた介護費を行政に請求しますが、介護報酬の入金まで2か月近くかかり、売上が立った日よりも随分と後になってしまいます。
一方で、人件費や賃料費・光熱費などは毎月かかってしまうので、入金があるまでは、自己資金や銀行からの借入等でしのがなければなりません。
ほかにも、建設業の場合、受注を受けた建物の支払いが「手形」であれば、実際に現金化されるまで3~4か月かかることもあります。
このような場合も受注を受けた企業は、現金が手元に入る前に、建設に必要な人件費や工事費などの支払いを立て替えなければならないのです。
売上と入金に時差がある業種では、売上が拡大するほど、自分で建て替える必要のあるお金が大きくなる傾向にあります。そのため、急激に売上拡大をするケースでは、特に資金繰りの悪化に注意が必要です。
さいごに
ここまで、貸借対照表を使って安全性を分析する方法について紹介してきました。
企業は、たとえ黒字であっても、資金繰りが悪化して支払いができなければ倒産することもあります。そこで、投資する前に企業の安全性をチェックしておくことは重要です。
貸借対照表のおすすめ分析ツール紹介
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貸借対照表をグラフ化できる
マネックス証券の銘柄スカウターを使うと、貸借対照表が自動でグラフ化され、各企業の貸借対照表の中身を簡単に把握することができます!
これにより、「どのような資産を多く保有しているのか?」や「負債の割合はどのくらいか?」などを視覚的にチェックできます♪
貸借対照表の推移を時系列で把握できる
さらに、貸借対照表の推移を時系列で確認することも簡単にできます。(最大10期分)
過去と比較することで、企業の変化がより明確に見えきます♪
参考:マネックス証券の「銘柄スカウター」の機能や活用方法とは?